たまには書評をしてもよいのではないかと思いました。
本日のおすすめ本はこちらです。
小浜正子、落合恵美子編『東アジアは「儒教社会」か?』(京都大学学術出版会、2022)。
東アジアにおける「儒教社会」なるものの存在については俗論数多ありますが、この観念に親族の構造の面から迫る本です。わたしの調べるところ、「儒教社会」というタームは当然古典には出現しない言葉でありますが、1952年頃より使用され始め、1995年前後の中国学外の領域においてその用例のピークを迎えた言葉のようです。*1
本書では、この「儒教社会」なる状況や、東アジア社会の「儒教化」の実態について、歯切れがよいとはいえないながらも文明史的な検討が示されており、その点で意義深いと言えます。 また、この歯切れの悪さについては、そもそも「儒教社会」なる言葉が、本来それぞれ相対的に距離を置かれるべき「儒教」「儒学」「儒家(諸子)」の区別を明確にしてこなかったという消極的な抽象性からくるものと思わざるを得ず*2、本書の責任ではないということができます*3。議論の拠り所であるべき先行の論が曖昧な言葉を使っているために狙いが絞り込めないのですね。
物の名前というものには、讃美・誹謗の毀誉褒貶はつきものですが、「儒教社会」の語もその例に漏れず、西洋的なるものと対称的であるはずの東洋的なるものに、物事の原因や合理的な説明を求める価値判断の空隙に存在すると言えそうです。その言葉が気ままに流布するとき、物事についての理解は消長し、一方では儒教に対するこもごもの認識を生み、一方では本書を生んだ。そのようなことを示唆する意味でも、おすすめできる本だと思います。
また、本書刊行の後に行われた、第66回国際東方学者会議の研究発表資料が参考になります。
佐々木愛「儒教社会とは何か――近世東アジア各国の比較のために」(http://www.tohogakkai.com/66sym2.sasaki.ho.pdf)
以上です。
この書籍の具体的な内容に触れない短評が書評の体を為しているか、わたしには判断しかねます。一応個人的な連想のみに頼った文章というわけでもありませんし、批評らしきことが実践できたので満足しています。
今後ともよしなに。